Wanna-Gonna Digital & Cassete Single
それから
2018.11.23 Release

ライナーノーツ

浅倉 奏(Text & Photos/MV監督)

海に縁がない人生だった。僕には潮の音を聞いても思い浮かべる部屋はない。だけど、この曲を初めて聞いたときに思い出した部屋はある。

18歳まで住んだ実家は東京・駒沢、賃貸だった。狭くて、古くて、今にも壊れそうな部屋。その小さな部屋で、それこそWilcoやSparklehorseなんかをひとり夜中まで聴いていたときのこと。案の定今は取り壊されて跡形も無くなった、あの部屋。

何年か前、神奈川の「新しい」実家に帰るとき、小さな頃によく行った駒沢のパン屋・パオン昭月で、なにも考えずに母親が好きだったパンをひとつ買って帰った。

そこはやなせたかし公認でアンパンマンのキャラクターのパンを売っていて、「アンパンマンのパン屋」と呼んでよく買って帰ってあの部屋で食べた。僕も、母もきっと大好きだった。そのパンを見た母は「久しぶりでうれしいわ。」と小さく笑った。僕らには帰る場所がないと思っていたので、そのパンを見て久しぶりだ、と笑う母の顔がうれしかった。そして、僕らにはそんな小さなものしか残されていないのだと実感し、悲しかった。

でもたぶん、自分の人生はいつだってそういった小さい記憶をかき集めるものなんだと思う。少し遠巻きで、気づいた時には後ろ姿になっている、間に合わない記憶を。

いつも集まった高円寺のマンションはサンタ・マリア・ノヴェッラのポプリの香り。一回しか行かなかった小竹向原のあの部屋の、無印のアロマ・ディフューザーから淡々と出る水蒸気と無言。ひとりで泊まったニューヨークのホテルのエアコンは変な位置にあって、カーテンがずっと捲り上がり揺れていた。佐渡ヶ島の旅館、障子を動かすとその裏一面にお経の文字が。怖すぎて眠れなかった。

ポートランド、ロス、パームスプリングス。神楽坂、中目黒、別府、香港、軽井沢、富士見台──。一瞬でも過ごしたあの「部屋々々」自体の記憶はいつしか揺らぎ、ぼやけ、砕け、中にはもう二度と行くこともない部屋もあるだろう。けれど、小さな記憶は今もしっかりと残っていて、その先には家族や恋人、友人たちと、あるいはひとりで過ごした時間が見える。

そして今自分が暮らす部屋。この部屋に住んでもう何年かな。少し前に不動産屋から連絡が来て、2020年にはオリンピックに合わせて取り壊されることが決まったらしい。来るべき別れに向けて、僕はこの部屋を撮ってMVとして残すことに決めた。それがこの曲にも、そしてこの部屋にもぴったりだと思ったから。

海に縁がない人生だった。僕には潮の音を聞いて思い浮かべる部屋はないけれど、この曲を聞いたらきっと、生まれ育ったあの部屋と、もうすぐ住まなくなるこの部屋を思い出すのだろう。記憶は懐古のためにあるのではなく、常に今の、そしてこの先の未来のためにある。そんなことを考えながら、今日も窓を開ける。10月の終わり、11月の初め。あまりにもあっという間に秋だった。

それから

前にあったことや
君が透明だとか
忘れそうになりかけて
適当な椅子にもたれた

風が凪いだ午後は
君を確かめながら
なんとなしに過ぎ去った
日々もここに根を張る

潮の音が届く
君の部屋を思い浮かべた
どこかで見たようなおぼろげな後ろ姿

開いた窓の外の
日に焼けたシャツと海の色
思い浮かぶ全てが
形をとどめて浮き上がるように
目の前が鮮やかに移り変わる

取り出された景色は
ここでむき出しのまま
でも綺麗なものだよ
君もそう思うのかな

潮の音が届く
君の部屋を思い浮かべた
どこかで見たようなおぼろげな後ろ姿

急いで窓を閉める
かすれるほどの君の声が
届いた波の音に
かき消されぬように忘れないように
目を閉じて全て焼きつくままに

Boyhood

雨上がりの匂いはいつでも
遠い日々を確かに近づける
遠い街の彼女に手紙でも
とても小さな僕らの秘密の場所と
心はそのままさ
ずっとめぐる季節鍵をかけて
通り過ぎた雲胸は震える

遠い街へ自転車を漕ぎ出そう
僕の背丈が彼女を追い越す頃
どこまで行けるかな
ずっとめぐる季節日が落ちる前の
色づくような空胸は震える

Wanna-Gonna

竹澤浩太郎(Vo.Gt)、奥津誌朗(Gt)、高山静迪(Ba)、小口健太郎(Key)、砂井慧(Dr)からなる5人組バンド。中学時代に結成。大学在学中に砂井が加入し、本格的な活動を開始。2016年3月に3曲入り自主制作盤「THREE」をリリース。フジロック2016ルーキーステージ出演。2017年7月に初全国流通盤7インチシングル「New Town」、9月に1stミニアルバム「In the Right Place」をリリース。広くアメリカ音楽に影響を受ける。

Digital & Cassete Single "それから"

※ カセットにはダウンロードコードをお付けします。
※ 2018年11月23日(金)から各サイトにて配信開始いたします。

ツアー日程

  • 2018.11.23(Fri.) at 京都

    • 会場  京都nano
      出演  w/ 阿佐ヶ谷ロマンティクス / バレーボウイズ / ギリシャラブ
      時間  OPEN 17:30 / START 18:00
      料金  ADV / DOOR ¥2,300(+1D)

  • 2018.11.24(Sat.) at 名古屋

    • 会場  鶴舞K.Dハポン
      出演  w/ 阿佐ヶ谷ロマンティクス / ノンブラリ / HoSoVoSo
      時間  OPEN 17:30 / START 18:00
      料金  ADV / DOOR ¥2,300(+1D)

  • 2018.11.25(Sun.) at 東京

    • 会場 下北沢BASEMENTBAR
      出演  w/ 阿佐ヶ谷ロマンティクス
      時間  OPEN 18:30 / START 19:00
      料金  ADV / DOOR ¥2,300(+1D)

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